裸にされた子供たち

私が小学校六年生のときの話である。
その頃の私たちは、夏になると、小川か池で泳ぐのが常であった。私の郷里、香川県には灌漑用の溜め池が多い。プールなどは映画以外ではまだ見たこともないという時代であった。
その年の七月、池で泳いでいて溺れた下級生の子供がいたということで、私たちの小学校では全員が池で泳ぐことを禁止された。
 受け持ちの「ライオン」こと宮武先生は
 「この組の子供が池で泳いだ場合には、その罰として、裸で授業を受けてもらいます」
と宣言した。
 しかし、村の小川は余りにも小さく、上級生が泳ぐところではないし、海へ行くには四キロメ-トルもあって、時たま連れて行ってもらえる海水浴のときだけだった。
子供は毎日でも泳ぎたいのである。ある時、私と共に何人かの子供たちが、学校の帰りに、田村池で泳いでいたのを先生に見つかってしまった。
その翌日、先生は教室で一同をじろじろ見渡しながら
「その後、池で泳いだ人は手を挙げなさい」
と言った。
 見つかった子も見つからなかった子も正直に手を挙げた。およそ七~八人は居たであろうか。
「池で泳いだ子は約束どおり、裸で授業を受けてもらいます。その子たちは全員、教室の後へ行って裸になりなさい」
と先生は言った。私のほか、O,H,SY、その他の子供たちも次々と席を立って、後へ並び、一斉に服を脱ぎ始めた。パンツ一枚というところまで脱いで、もじもじしている子もいた。
先生は
「全部脱ぐのです」
といったので、H君は泣き出してしまった。そろそろ大人の兆候が見え始めている子供もいたのである。
私たちは、五年生から男子組で、男女共学ではなくなっていたが、今の時代にこんなことをしたら、子供のお母さんたちは大騒ぎをするであろう。
 さて、その時、ライオン先生はニヤニヤしながら、
 「それでは全員、後ろ向きでよろしい、全部脱いで授業が終わるまで立っていなさい」
と言った。全員は壁の方に向かって立ち、丸裸となった。
 授業が再開されて、およそ十分も経ったころであろうか、突然、飛行機の大きな爆音が聞こえてきた。今までに聞いたこともない程、大きな音であった。
 「それ・・、わあ、わあ・・ 」
みんな教室の外へ一斉に飛び出していった。他の教室でも同じである。私たち裸の子たちも、そのまま飛び出してしまったのである。ライオン先生も後に続いた。
 みんな運動場まで駆けて行って空を仰いだ。
 空では二人乗りの飛行機が急降下をしていた。日の丸が鮮やかである。乗っている人の顔も見える。飛行機の人も手を振っていた。
 予科練の郷土訪問飛行であった。
 絵本では見ていたが、実際の飛行機をこんなに近くで見るのは初めてだった。飛行機から、小さな落下傘につけた「信管」が投げられた。母校への便りである。
 児童も、先生も、校長先生も、空を仰いで手を振り、万歳を叫んだ。大きな日の丸を持ち出して来て、子供に持たせた女の先生もいた。
 飛行機は、何回も何回も、私たちの上で旋回し、急降下を行った。そのとき私も大きくなったら海軍へ行ってあのような郷土訪問飛行をしてみたいなと思った。
やがて、飛行機が大きく翼を振って東の空へ去り、夫々が教室へ帰りかかったとき、先生や子供たちは初めて裸の子たち気付いた。
みんな可笑しがって、どっと笑った。私も自分が裸であったことに気付いた。
女の子たちは目を丸くして
「きゃ、きゃ」
と騒いだ。
 なんと恥ずかしかったことか!
私をはじめ裸の子たちは夢中で逃げるようにして教室へ走った。